いつまでも、いつまでも、馴染みの店
馴染みの店で夜を過ごした。
店に通い始めて恐らく10年になるかと思う。そしてこの店で働いている料理人とホール担当とも10年の付き合いになる。私はこの店が大好きだし、この店で働いているこの2人も友と思っている。30代後半から知り合い、客と店の関係でこの関係が続けられているのは、とても嬉しく思うのと同時にやや不思議にも思ったりする。
年齢を重ねると友が出来難くなるという。恐らくだが、年齢を重ねるに従い、純真に付き合うことが出来なくなり、お互いの環境がやもえない理由で変化し、価値観が相容れなくなるからだと思う。
しかし、私は友が出来た。店の中という条件付きだからこそ出来たのだと思う。その条件を踏み越えないよう、まるでゲームをしているような感じで、相手を怒らせることもなく、不快にもさせず、長くお互いにコミュニケーションを取り合った。
この店があって、その店で働いている人がいて、そこに気に入って通っている人がいた、そんな10年だった。
そして、私は転勤で人生を暗転させ、再びここに戻ろうと人生を変える決断をした。
そして私の話を聞いて相手も人生を変えることを決めたようだ。
独立して自分の店を持つと呟いた。
とてもいいことだと思う。
心の底からその決断を応援しなくてはいけない。
ただ、私の心に最初に現れた感情は、寂しさ、だった。
いつまでもこの店で時間を過ごすことが出来ない、その事実。
永遠はないのだ。
あたりまえだが、いつまでも同じ、ということはありえない。